佐野研二郎さんの騒動を見ているうちにデザインおもしろいと思ったこといろいろ
こんにちは、部員のくまです。
佐野さんの騒動からこっち、自分が部長を務めるせいかつ部そっちのけでこちらにばかり記事を書いています。
前回の続きで、今回は『デザインに関わったことがある人とそうでない人では「良いデザイン」の基準が違うと思った』ということを書くつもりだったのですが、あんまり中身がなく、それよりも騒動を見ているうちにデザインおもしろいなと思ったことがいくつかあったのでそっちを書こうと思います。
00年代以前以後のデザインの違い
今回の騒動を眺めていたらこんな記事に突き当たりました。長野オリンピックのエンブレムをデザインされた篠塚さんの記事です。
佐野さんのエンブレムに対し、けっこう厳しめのことをおっしゃっています。
佐野さんの会見に納得した直後に読んだので当初は反発を感じましたが、確かにそうかもと考えさせられることが書かれています。
今回のことに一番関わっていて印象的だったのはこの個所でしょうか。
オリンピック・パラリンピックのような世界的なイベント、4年に一度のスポーツの祭典のエンブレムにはみんなが期待している「ワクワク・ドキドキ!」、「躍動感」、「国際性」、「みんなで一緒に盛り上がれる」などなどが説明なしで直感的に感じてもらえるデザインでなければいけないと思っています。
しかしこれ以降のエントリーでは盗作騒動に巻き込まれてしまった佐野さんの戸惑いに共感するような内容も書かれていて、興味深かったです。
それはさて置き、今回自分がおもしろいなぁと思ったのは、佐野さんのエンブレムと篠塚さんの長野のエンブレムでは、印象や形態が全く違うということです。
佐野さんのものは面を矩形で囲っている(パラリンピックのものと並べると特に)印象なのに対し、篠塚さんのは空間にワンポイントとして配置されたような印象です。
そして佐野さんのは直線的で要素が少なくシンプルなのに対し、篠塚さんのは曲線的で(色的にも)要素が多く、全体としてはスッキリしていますが、佐野さんのものに比べると複雑なつくりのように思います。
とにかく、同じオリンピックのエンブレムでも別物だなぁという印象がありました。
この違いを見たとき、頭に佐藤可士和さんが浮かびました。
佐藤可士和さんというと、直線的でシンプルなデザインが有名ですが、佐野さんのエンブレムはその流れを汲んでいる印象で、長野のエンブレムと並べると、よりそれがはっきりしたように思いました。
Appleのシンプルなデザインもここ十数年(iPodで息を吹き返した頃からでしょうか)、ウェブデザインやあらゆる場面でお手本とされている印象があります。
たぶんシンプルこそ美しいという考えは昔からあったのだろうと思うのですが、佐藤可士和が直線的なデザインで有名になり始めた頃、AppleがiPodで息を吹き返した2000年ぐらいからこの傾向が強まったような印象があります。長野オリンピックは1998年で、ほんの数年違うだけですね。
そんなことを思いながら篠塚さんのエントリーについたコメントを読んでいたら、「ロゴの概念は2000年以降変わってきている」とおっしゃってる人がいました。佐藤可士和さんやAppleとは別の理由なのかもしれませんが、00年以前以後の違いがあることがわかっておもしろかったです。
(ちなみに佐藤可士和さんといえばステップワゴンのCM(90年代)も有名ですが、その頃はまだそれほど直線的な感じはなかったようです。)
歴代オリンピックのからその時代の日本がわかる
ということで、時代によってデザインの傾向が違うんだなぁということを意識し、改めて歴代のオリンピックのエンブレムやポスターを見比べてみるとけっこう発見があって面白かったです。
佐野さんが踏襲したという1964年東京オリンピックのマークは、当初はシンプルだとしか思いませんでしたが、改めて見ると「祭りを楽むぞ!」という開放的で快活なパワーを感じます。やはりこの時代の勢いなのでしょうか。1972年の札幌オリンピックのマークもそのシンプルさを受け継いでいる印象です。
そして前項で話題にした1998年長野オリンピックのエンブレムは東京オリンピックとは全く違った印象です。引きで見ると花火、寄りではスポーツの躍動感を曲線を使って表現している印象です。「お祭りを楽しもう!」に「競技を観戦しよう」が加わったような感じで、初めてのオリンピックの頃とは違って、もう少し競技に入り込んで楽しんでる感じがします。配色も高揚感があって、放射状の自由な配置も楽しいです。
ところで佐野さんのエンブレムが発表された頃、「桜の招致ロゴのほうが好きだった」という意見もよく見ました。自分はあまりオリンピックに興味がなかったのでこの頃初めて招致ロゴを見たのですが、全方位に笑顔をふりまくようなかわいいデザインですよね。誰にとっても親しみやすいデザインで、女性的な柔らかさと繊細さも感じます。
そして話題になった2020年東京のエンブレム。こうやって比べてみて、1964年のものとは違ったシンプルさを感じました。1964年のは野性的なシンプルさを感じるのに対し、こちらは計算されたシンプルさ、という感じがします。一度目のオリンピックの頃よりも成熟して洗練された日本をアピールしたいというのがあるのかなぁという気が、個人的にはします。(しかしこの公式サイトのヘッダデザイン、斬新すぎ!↓)
ところで、今まで全く知らなかったのですが、日本は1940年にもオリンピック招致に成功していたらしいです。戦争のため実現しなかったその幻のオリンピックのマークは富士山をモチーフとしたものだったようです。モノクロのせいでちょっと沈んだ印象ですが、こんな繊細で洗練されたデザインがこの頃の日本にあったなんてすごいなぁと思いました。
こうやって並べてみると、オリンピックのエンブレムはその時代の日本を感じさせるんだなぁということがわかって、すごく面白かったです。
先入観もあるかもしれませんが、1964年はなんか日本全体の勢いを感じます。1998年は、競技の楽しみ方を知った上でオリンピックを楽しんでいる感じがします。
そして5年後のエンブレムはどんな日本を象徴することになるんでしょうか。ゲームがや映画がヒットするとそのBGMは名曲として残ったりしますが、オリンピックの成果の如何によって、このエンブレムの評価も変わってくるのかもしれませんね。
Jリーグのロゴは黒の面積が大きいのにぜんぜん暗くないふしぎ
今回のエンブレムは黒の面積が大きく、暗い感じがするから好きではない、という意見をネット上でよく見ます。なので一部で似ていると言われている(あくまでも一部で)Jリーグのロゴと見比べてみました(画像は下記リンク先に)。
当然、まったく似てはおらず、オリンピックエンブレムが落ち着いた印象なのに対して、Jリーグのロゴはポップな印象のデザインでした。ところが! 黒の面積が大きいのはむしろJリーグのロゴのほうだということに気づきました。
なんでだろうなぁと考えたのですが、これはモチーフにしている字体の違いだろうと思いました。
エンブレムのほうは、佐野さんご自身がおっしゃってた通り、強さにしなやかさと繊細さを併せ持った字体をもとにしているのに対し、Jリーグの方は極太のJのシルエットです。字体自体がすでに印象を持っているんですね。
つまり黒のせいよりも、モチーフにしたフォントの影響が大きいんだなぁと。
具体的には“Didot”や“Bodoni”という字体をモチーフにしたとのことですが、これらは近代的な印象の字体に分類され、ファッション誌のVogueのロゴもDidotらしいです。こういったところでも、このエンブレムがどういった印象を目指したかがわかります。
あと、エンブレムのほうにはグレーや茶のような中間色が入っているけど、Jリーグは黒と赤と白のみでコントラストが強いために元気な印象になるのかなぁと思いました。
以上、難しい話に口を挟んでしまって途中後悔しましたが(ブログ書くのも大変だった)、ちょうどウェブデザインを押さえなおしているところだったので、大変勉強になりました。実務にも活かせるようにがんばりまっす!
おまけ
一般人も軽いノリで参加できる雰囲気があれば、オリンピックももっと楽しく盛り上がりそうな気がするんですが・・・。
東スポの記事によると「エンブレム問題で殺伐としているから、ポスターを見てちょっと笑って、ほっこりしてもらえたらいいなと思ったんですけどねぇ」とのこと。残念。
歴史あるイベントともなると大人の事情をクリアするのはなかなかむずかしそうです。